呉彦祖

あたらしい一年の朝は、祈りの朝だ。 かなしみがすこしでも減って、よろこびがすこしでも多くおとずれますように。 青い空からきらきらと宝石がこぼれるように降り注ぐ太陽のひかりにぼくは願った。 いつもはカーテンまで閉めきった薄暗いばあちゃんの部屋も…

ゆくとし、くるとし、呉彦祖 ハァイ、みんなグッイブニーン! 今年ももうすぐ終わりだねー。みんな年の瀬は実家に戻ったりするのかな? それとも家から一歩も出ずにひとりでまったりかな? 浴びるほど酒を飲んで、浴びるほどDVDを観てってカンジ? それもい…

凍てついた空気のなかに、時折やわらくとけた陽のぬくもりを感じる冬の終わりのことだった。いつものように背中をまるめてトールケースをなでながらばあちゃんは言った。「ダニエル・ウーはなんのために上り詰めると思う?」 答える代わりにぼくはばあちゃん…

ダニエル・ウーを知って、ぼくはほんのすこしだけ大人になった気がする。 大人は「大人になった」なんて、いちいち思ったりしないだろうから「大人になった」なんて言ってるぼくは、やっぱりまだまだこどもなんだろうけど、ダニエル・ウーが演じるキャラクタ…

一晩経ってもまだ、まぶたの奥にサムの姿が残っている。 父親の涙を見た瞬間、サムは世界の終わりを感じたのだろう。サムの心からは血が噴き出していた。ぼくの目から見たらサムの行為は裏切りだ。だけど彼にとって、彼の決意は「裏切りは無かった」と、彼の…

ばあちゃんは言った。「この世には二種類のダニエル・ウーがいるんだよ」「良いダニエル・ウーと悪いダニエル・ウー?」 ぼくの答えに、ばあちゃんは「ち、ち」と舌を鳴らし、首を振った。「死ぬダニエル・ウーと死なないダニエル・ウーさ」 デッキの上に重ねてあ…

「ねえ、ぼくちゃん。ぼくちゃんは、不憫な子が好きなのかい」 ぼくがこくりと頷くと、ばあちゃんは「そうかい、そうかい」と呟きながら、なにかを考え込むような素振りをみせた。「なら、ぼくちゃんは、ダニエル・ウーを知らないといけないねえ」 首を傾げる…