新世界

仕事を終えたおんなを待っているもの、それは一杯の酒と、韓流である。 「どっこいしょ」 机のうえに並んだ酒瓶とざくろ酢のボトルを押しのけて、ノートPCを立ち上げる。DVDドライブに挿入するものはもちろん決まっている。『新しき世界』だ。 「2月1日の…

「あんた、新世界…見たな?」 ささやかなランチタイムを終え、映画館に足を踏み入れるなり、飛んできた言葉が、それだ。 小さな映画館だ。ロビーも広くはない。声の方向に首をめぐらすと、壁際のソファに寝そべった男がこちらを見ていた。伸びざらした前髪の…

灰色にくすんだ空に雪が舞い、凍てついた空気が肌を刺す、そんな日であってもひとは映画館に足を運ぶ。 開店前から入り口に並ぶ客の数は、二十を超す。 行列にくわわりながら、おんなはぼうと考えた。 (そういえば3人で行ったら一人1000円になるんだっ…